香水にも使われる!?「若い女性特有の甘いニオイ」のラクトンとは?

ラクトンC10/C11のイメージ

香水にも使われる、若い女性特有の甘いニオイがあります。粉っぽくも重たくもなく、体温に溶けていくようなやわらかさ。あの“若い肌の甘さ”の中心にいるのがラクトン(lactone)という香り成分です。

ラクトンはたくさんの種類がありますが、その中でラクトンC10(γ‑デカラクトン)とラクトンC11(γ‑ウンデカラクトン)の2種類が、あの桃のニュアンスをはっきりと作り出します。

ラクトンC10/C11はどんな香りか

ラクトンの桃の香りのイメージ

いずれも香りの印象は桃です。若い女性のニオイは桃です。しかしながらC10とC11で違いはあります。

ラクトンC10が含まれている果物のイメージ

ラクトンC10は桃にミルクを一滴落としたような、なめらかでふくよかな甘さを与えます。天然ではアプリコットやココナッツに見つかります。

ラクトンC11が含まれている果物のイメージ

一方のラクトンC11は“もぎたての桃”のように元気でフレッシュ。天然ではグアバやパッションフルーツに含まれます。

余談ですが、香料の世界では、ラクトンC11が“Aldehyde C‑14”という通称で呼ばれることもあります。名前にアルデヒドと入っていますが実体はラクトンです。長い慣習から残っている呼び名だと覚えておくと、香水の説明文を読むときに混乱しません。

年齢とラクトンC10/C11の関係

2017年にロート製薬が発表したデータでは、ラクトン由来の甘い香りは10代後半が最も強く、その後30代にかけて目立って弱まり、35歳前後までゆるやかに低下していく傾向が示されました。

もちろん個人差は大きく、体質や生活習慣、スキンケアの仕方でも印象は変わります。それでも「若いと桃っぽい甘さを感じやすい」という日常の実感と、研究の方向性がきれいに重なるのは面白いところです。

ラクトンC10/C11の香水の中での働き

ラクトンの香水での使われ方(フルーツ系)のイメージ

香水の調合では、ラクトンC10/C11は果実の核として使われます。

ピーチやアプリコットの香りをそのまま立ち上げるだけでなく、ホワイトフローラル(ジャスミンなど)にクリーミーな官能を与え、ムスクの清潔感と混ざると「地肌そのものが甘い」ような錯覚を生みます。スミレ系(イオノン)と合わせれば、ふんわり上品なパウダリーへ。

ラクトンが金木犀の香水で使われているイメージ

さらに日本で親しまれている金木犀(オスマンサス)の香りを再現する際も、あんず様のやわらかい甘さを作る柱として欠かせません。

調香をする際には、配合量が少し変わるだけで雰囲気は大きく変わります。多めならジューシーでキュート、控えめなら素肌に同化する無垢な甘さ。日常使いで「香りが先行しすぎない」上品さを狙うなら、低めのドーズで肌なじみを意識した処方が鍵です。

歴史のエピソード

ラクトンC11が見出されたのは20世紀初頭。

ゲランのミツコを持っている女性のイメージ

1919年に登場したゲランの「ミツコ」は、ピーチ様のニュアンスをエレガントに広めた象徴として語り継がれています。シャープなシプレの骨格に、桃の甘さがほのかに差し込まれることで、官能と知性が同居する新しい表現が生まれました。以後、ピーチノートは“女性らしさ=可愛い”に閉じない、奥行きのある感情を運ぶパーツとして扱われていきます。

どう選び、どうまとうか

「ピーチ」「アプリコット」「ミルキー」「クリーミー」といった言葉が説明文に並ぶ香水は、たいていラクトンが活躍しています。まずは店頭のムエットで明るい果汁感か、ミルキーなコクか、自分が惹かれる方向を確かめましょう。

次に必ず肌乗せを。体温でラクトンはふくらみやすいので、つけてから2~3時間後のミドル~ラストが本番です。トップで可愛らしく感じても、時間が経つとムスクやフローラルに溶けて「素肌っぽい甘さ」に変わる――その移ろいが似合っていれば、日常の装いに自然に溶け込みます。

季節で考えるなら、春夏はラクトンC11のフレッシュさを前面に出した軽やかなフルーティ×フローラル、秋冬はラクトンC10のミルキーさをムスクやバニラと合わせて、ニットに合う丸みを楽しむのもおすすめです。強さが不安なら、オードトワレやヘアミスト、ボディミルクといった“薄衣”のフォーマットから始めると失敗が少なくなります。重ねづけは肌の保湿→香水の順。しっとりした肌は香りの持ちを穏やかに良くし、ラクトンの角を丸めてくれます。

「エイジング対策」表示との付き合い方

ラクトンC10/C11配合であることをアピールする香水のイメージ

近年はラクトン配合を前に出し、若見えを連想させる訴求を行う香水やボディ製品も増えました。ラクトンの甘さが若々しい印象に寄与するのは確かですが、香りは年齢を「隠す」ためのツールではないと考えます。

今の自分の雰囲気やライフスタイル、纏う服に合う香りを選んだとき、ラクトンはもっとも美しく働きます。ほんの少しの桃色の甘さが、表情や仕草と調和してこそ魅力は最大化されるのです。

まとめ

「若い女性特有の甘いニオイ」の正体のひとつは、ラクトンC10とC11が作る桃のニュアンス。10代後半で強く、30代で目立って減っていくという傾向(2017年・ロート製薬の発表)は、私たちが日常で感じる印象とよく響き合います。香水の世界では、果実はもちろん、ジャスミンやムスク、スミレ、金木犀と手を取り合い、素肌に寄り添う官能を形作ってきました。

自分らしく香水をまとっている人のイメージ

もし「可愛い」か「上品」かで迷ったら、C11寄りのフレッシュなピーチは軽やかで快活な日常に、C10寄りのミルキーなピーチは落ち着いた装いに。年齢を問わず、今のあなたにしっくりくる“桃色の甘さ”を見つけてみてください。