アイリスってどんな香り?(おすすめの香水も)

アイリスってどんな植物?
虹の女神の名を持つアイリス、フランス語だとイリス、香料だとオリスと呼ばれるアヤメ属のこの植物。

200種以上ありますが香料に使われるのは3種のみ。香水の原材料になるものは歴史的にイタリアのトスカーナ、フィレンツェ周辺などで栽培されてきました。

世界で最も高価な天然香料の一つです。
香料に使われる“アイリス3種”の要点
- Iris pallida(パリーダ):香料用途の“標準”。フローラルで澄んだパウダリー。トスカーナ(フィレンツェ近郊)で古くから根茎が栽培され、近年はフランスや中国でも生産が広がっています。
- Iris germanica(ジャーマン):主にモロッコで栽培。果実味あるニュアンスが出やすいといわれ、フレーバー用途にも向くと専門誌が解説。
- Iris florentina(フロレンティーナ):白花の園芸形・分類上はI. germanicaの一系統として扱われることが多く、香料文脈では“Florentine Iris”として言及されます。
補足:産地の個性を聞き比べるなら
I. pallida(伊・仏・中)の“澄んだフローラル~ルート感”と、I. germanica(モロッコ)の“赤い果実を思わせるふくよかさ”は、専門家が語る違い。香水でも質感差として現れます。
花じゃなく“根”が香る――だから高い
「世界で一番高い香料」そう聞くと資本主義社会にどっぷり浸かったあなたはこのきれいな花が黄金に見えてくるでしょう。

でも残念。アイリスの花は香料にはなりません。香料になるのは 実は地中に埋まる根茎なんです。

この根茎、約3年かけて育てたものを収穫しますが、収穫直後はほぼ無臭で、最低でもさらに3年間は慎重に乾燥・熟成をさせて、ようやく香りの核となる化合物が育ちます。


合計6年以上。それを粉砕して水蒸気蒸留すると常温で固まるオリスバターと呼ばれる香料が手に入るのですが、乾燥根茎1キロあたり2g程度しか取れません。

そこからさらに脂肪酸を除去すると香料は根茎1キロあたり0.4 g程度。

この時間と手間、そりゃ高いですわ。
数字で見る“希少さ”
- 収穫したての根茎は無臭 → 3~4年の熟成で香るようになる。
- 栽培~抽出までの実働サイクルは約6年(3年栽培+3年熟成)という業界誌の記述が一般的。
- 乾燥根1トンから“オリスバター(oil of orris)”は約2kg、すなわちおよそ0.2%しか得られないという記述が標準的に見られます。
- 市販のオリス原料はイロン(irones)含有率でグレード表記(例:8%/15%/20%)。含有率が高いほどパウダリーが強く、価格も上がるのが通例です。
アイリスの香りの印象

その香りはイロンという分子がメインで、さらりとしたパウダリー感、バイオレット様のフローラル、どこかフルーティでわずかにウッディの陰影もはらむ複雑な香り。

個人的な捉え方は、香りの表面を磨く冷たいパウダリーのヴェール。

ミドルからベースで気品・静けさを与える仕立て役。

例えば白花を上品に整えたり、ミルキーなサンダルウッドにはスエードのように上質な質感をもたせたり、様々な素材と調和します。

まあ当然こんなに高いので合成で骨格を作り天然で仕上げの設計が現実的です。
イロン(irones)とイオノン(ionones)の関係
- オリスの“パウダリーでスミレ様”の正体がイロン(α/β/γ体)。原料メーカーの技術資料でも“オリスの主要芳香成分”として明記されています。
- 一方で“スミレの花らしさ”は、19世紀末に合成発見されたイオノン類が担い、現代の多くの“バイオレット調”に使われます(バイオレットの花自体は抽出困難)。
- →実務ではイオノン系で骨格を組み、天然オリスで質感を仕上げる手法が王道。天然だけでは再現できない厚みがあり、合成だけでも出ない“奥行き”を補完し合います。
歴史の中のアイリス

アイリスは1世紀の薬草書にはすでに香料として時間の経過で香りが増すことまで書かれており、歴史的に香り付けに使われ、1890年代に合成香料ができると革命がおき、1970年に登場したシャネルのNO19など名香の柱に、いまも上質な質感づくりの象徴です。
史料のツボ
- 紀元1世紀のギリシャ人医師ディオスコリデス『マテリア・メディカ』は“アイリス”を最初の項目に掲げ、根茎の用法を詳述。新鮮な根は無臭で、乾燥・熟成で香りが育つというポイントも伝わります。
- シャネル N°19(1970)は“メインフローラルがアイリス”とハウス公式年表にあり、まさに“冷たいグリーン~上品なパウダー”の古典。
アイリスを知るのにおすすめの香水
そんなアイリスの香りを知りたい方におすすめの香水は以下の通り。
ゲランのイリス トレフィエ

アイリスの冷たさに焙煎コーヒーの温度差。
サンタ・マリア・ノヴェッラのアイリス(L’Iris)

凜と澄んだグリーンから上品パウダーへと移る正統派、。
フレデリック マルのイリス プードゥル(Iris Poudre)

フローラルアルデヒドのきらめきとパウダリーなアイリス。
おわりに

人も香料も見た目だけじゃわかんないですね 掘ってみないと。