フランキンセンスってどんな香り?(おすすめの香水も)

フランキンセンス、別名はオリバナム(日本語だと乳香)は、ボスウェリア属(Boswellia)の樹からにじむ芳香性の樹脂。
乾いた地域(オマーン、イエメン、ソマリア、エチオピアなど)に自生し、幹に傷をつけると「涙(tears)」と呼ばれる粒状の樹脂が固まります。

古くは宗教儀礼の薫香として、そして香水原料として用いられてきました。新約聖書でイエスに捧げられた「黄金・乳香・没薬」の“乳香”がこれです。
どんな樹?どんな香りの成分?

商業的に重要なのはB. carterii(ソマリア周辺)、B. sacra(オマーン/イエメン)、B. papyrifera(エチオピア〜スーダン)など。
蒸留で得られる精油は、α-ピネンやリモネンなどのモノテルペンが主成分で、レモンピールのような“明るいトップ”と、針葉樹系の澄んだ樹脂感をもたらします。B. sacra と B. carterii はしばしば同一視されますが、キラルGCによる成分比の違いが示されており、産地・種によって香りのニュアンスが変わる根拠になっています。

さらに2016年、フランキンセンス特有の“古い教会のような”あと残りに寄与するオリバニック酸(olibanic acids)が痕跡レベルでも強力な香気成分であることが報告され、なぜ微量でも“あの感じ”が立ち上がるのかが化学的に裏づけられました。
フランキンセンスの香り(精油 vs. レジノイド/CO₂)
フランキンセンスの香りは香料の抽出法で印象が変わります。

- 水蒸気蒸留の精油(Essential Oil)
透明感のあるレモンピール様のトップ、グリーン〜ペッパリーなテレペン感、澄んだ樹脂調。“軽やかでフレッシュ”な側に振れます。 - 溶剤抽出のレジノイド/アブソリュート
重い樹脂成分まで含むため、“温かい甘さ・バルサミックな奥行き”が加わり、保留性(ベースノート)に優れます。大手原料会社も「レジノイドは精油より温かく樹脂的」と整理しています。 - CO₂抽出
蒸留より広いスペクトルの成分を引き出しやすく、“樹脂そのものに近い厚み”や定着力が得られるのが一般的、と解説されています。
【よくある誤解】フランキンセンスに煙っぽさはない(「煙っぽさ」は原料そのものの匂いではない)
よくフランキンセンスをスモーキーな香りと言っている人がいますが、それは誤解です。
フランキンセンスはお香として儀式的にも、アロマでも焚かれますが、フランキンセンス精油に“煙のニオイ”はほぼありません。焚いたときに感じるスモーキーさは、熱分解(パイロリシス)で生じる別の化合物によるもの。オマーン産樹脂の煙からは多環芳香族などの煙由来成分が同定されており、一般的な線香・薫香の煙にもベンゼンやトルエンなどのVOCが含まれます。

香水ではこの“煙”をバーチタール(樺タール)やケード油、グアイアコールなどで演出するのが定石です。
欧米ではIncense(インセンス)=実質フランキンセンス?
香水のノート表記で “Incense(お香)”と書かれていると、実質フランキンセンス(オリバナム)を指すことが多いです。

日本では「お香」と聞くと多くの人が白檀や沈香を思い浮かべますが、欧米の人にとっては教会で焚かれるフランキンセンスこそ「お香(Incense)」になります。だから、煙の香りはないのに香水の文脈では煙のイメージが付き、インセンス=フランキンセンス、というイメージになっているわけです。
香りの働き:名脇役としての“澄んだ余白”

フランキンセンスはシトラス(特にベルガモット)の角を丸めつつ透明感を保つのが得意。樹脂らしい“芯”でトップからベースへ空気の抜け道をつくります。

相性が良いのは、他にもサンダルウッド/シダー/ラブダナムなどのウッディ〜アンバー系など。
原料会社の記述でも、フランキンセンス精油はレモニーでペッパリーな樹脂感を供給し、レジノイドはより温かくバルサミックに寄ると整理されています。
まず嗅いでみたいフランキンセンスを使ったおすすめ香水3選
【ニールズヤード レメディーズ】フランキンセンス

100%ナチュラルの香り設計。ライム/ネロリ/ベルガモットのトップに、フランキンセンスが心地よく呼吸し、パチョリ/ベチバー/ミルラが穏やかな余韻を与えます。日常に取り入れやすい“自然派インセンス”。
【ジョルジオ アルマーニ】プリヴェ オニキス

“教会の空気”と評される、極めてミニマルなインセンス。シダー/ベチバーのドライさにインセンスが凛として重なります。※“オニキス”はボトル(黒曜/縞瑪瑙)を想わせるデザインの形容で、香名はBois d’Encensが正式です。
【Aēsop(イソップ)】のイーディシス

ブラックペッパーとフランキンセンスが、サンダルウッドの温もりへ静かに溶け込む、ドライで現代的な“樹脂×スパイス”。透明感と温度のバランスが秀逸です。
サステナビリティ:買う前に知っておきたいこと
近年、過剰採取や火災、家畜の過放牧、害虫被害、更新不良などで、産地のボスウェリア資源が圧迫されているという報告が増えています。継続的なタッピングは幹孔からの虫害リスクを高め、休ませる期間が必要——現地研究でもそう示されています。購入時は産地や調達方針が明確なブランドを選ぶのが、香りを未来へつなぐ一歩です。 
まとめ:“澄んだ余白”をつくる香り

フランキンセンスは、レモンピール様のトップから清澄な樹脂感へ、そしてやわらかな温もりへと移ろう、立体的な素材。
精油はフレッシュで透明、レジノイド/CO₂は温かくバルサミックでベースの粘りを補強、“煙”は別素材で演出、という整理が香水づくりの実践にもそのまま効きます。(欧米の)香水の文脈でインセンスと書かれていたら、まずフランキンセンスを思い浮かべてください。