鼻の穴が2つある理由──人間は“立体で匂いを嗅ぐ”

鼻の穴のイメージ

「鼻の穴って、なんで2つ?」

実はこれ、理由があり、体の設計としてかなりよくできています。ポイントは、交代制で働くこと(ネイザルサイクル)左右差を使った“立体嗅覚”です。順番にまとめます。

鼻の交代勤務(ネイザルサイクル)

鼻の穴は実は交代制で働いています。あなたは普段自分の鼻のどちらが激しく働いているか意識していますか?

鼻の穴は交代制(ネイザルサイクル)

鼻の中には血管が豊富な“むくみやすい”組織があり、数時間おきに左右が入れ替わって片方が優勢、もう片方が控えに回ります。これをネイザルサイクルと言います。

鼻の穴が交代制であるというイメージ

控え側はただサボっているわけではなく、以下のような役割を持っています。

  • 加湿:乾いた空気で傷まないように水分を補給
  • 温度調整:冷たい空気を温め、肺や嗅上皮を守る
  • フィルター機能:埃や微粒子を捕まえて掃除 と、メンテナンスに勤しんでいます。
活性化しているほうの鼻の穴を調べている

いまどっちが優勢かは、鼻の下に指をあてて軽く息を吐くとわかります。強く出る側が“当番中”です。

鼻の穴が2つあるからできること:匂いの“ステレオ視”

匂いの“ステレオ視”

左右で空気の通り具合がわずかに違うと、同じ香りでも鼻腔の中での流れ方や届き方が少しずつ変わります。その結果、脳には「左右で微妙に異なる匂い像」が届き、これを比較することで

  • 匂いの方向や濃淡の勾配がわかる
  • 混ざった匂いの輪郭が取りやすくなる

という、目の両眼視や耳のステレオ聴取に似た利点が生まれます。

目の両眼視や耳のステレオ聴取

言い換えると、人は平面ではなく“立体”で香りを把握しているのです。

鼻の穴は2つ必要だと証明した実験

嗅覚実験のために、目隠し+イヤーマフ+分厚い手袋で視覚・聴覚・触覚の手がかりを封じているイメージ

2007年、カリフォルニア大学バークレー校の芝生でこんな実験が行われました。参加者は目隠し+イヤーマフ+分厚い手袋で視覚・聴覚・触覚の手がかりを封じ、チョコレートの精油で作った匂いの道を四つん這いでたどります。

結果は以下の通り。

カリフォルニア大学バークレー校の嗅覚実験のイメージ
  • 両方の鼻が使えると、人間の嗅覚はよく働き、参加者は匂いの道をちゃんと追える
  • ところが片方の鼻を塞ぐと、香りの位置を見失い迷子になったり時間がかかった

つまり、左右の情報の“差”が方向感、香りの奥行きを生むことが示されました。

香水を試すときのコツ(実践編)

香水を試しているイメージ

香りを“立体”で掴むには、基本は両鼻フル活用が鉄則。さらに効かせるなら・・・

  • いまの当番を確認:鼻の下に指を当て、強いほうを意識。2–3回、短く軽く吸って立体感をつかむ
  • 片鼻チェックは“味変”:片方ずつ嗅ぐとニュアンス違いがわかるが、最終判断は両鼻で
  • 鼻を休ませる:香りが分からなくなったら“無臭の空気”でリセット(外気や袖口が◎。よくリセットに使われるコーヒー豆は万能ではありません)
  • 距離をとる:肌やムエットに近づけすぎず、少し離して空気と混ざった香りを観察

まとめ:鼻の穴が2つある理由

  • メンテナンスの交代制(ネイザルサイクル)で、嗅覚のコンディションを保てる
  • 左右差の比較で、香りを“立体”として把握し、方向や輪郭が読み取りやすい
  • バックアップとして、どちらかが詰まっても呼吸と嗅覚の機能が途切れにくい

結論:鼻の穴が2つあるのは、高性能な空調+ステレオ嗅覚を実現するための“精密設計”。

香水を試すときも、両方の穴をフル活用して、香りの立体感まで味わいましょう。