イランイランってどんな香り?(おすすめの香水も)

イランイラン(Cananga odorata)はバンレイシ科の常緑高木。10mを超える高木に育ち、細長い黄色い花弁が下向きに垂れる花から強い芳香の精油が得られます。主産地はインド洋のコモロ諸島とマダガスカルで、世界生産の多くを担ってきました。

その香りはチュベローズとジャスミンの中間とよく例えられます。

多層の甘美さとほのかな異国感が愛される理由です。他の様々なフローラルと合わせて花束感の艶出しをする役割でよく使われますし、サンダルウッドと合わせるとクリーミーで官能的な軸に、バニラと合わせると甘さが輝きを増します。
香りのプロフィール

- 白花の濃厚さ × クリーミーな果実感:ジャスミンやチュベローズ系の白花に通じる濃密さがあり、カスタードや熟した果実を思わせる甘さが重なります。「スパイシー=フルーティ」「ソーラー(太陽的)」「クリーミーなバルサミック」といったニュアンスで語られます。
- 隠し味のスパイス感:クローブ様の温かいスパイスに通じる陰影は、微量のオイゲノールなどにも由来。主要成分としてベンジルアセテート、リナロール、パラ‑クレジルメチルエーテル、メチル安息香酸などが知られ、前半(エクストラ)ほど華やかな成分が豊富です。
- 全体像のひとことで:白花の濃厚さがクリーミーなトロピカル甘さをもたらし(官能)、ほのかなスパイスとウッディが陰影を添える(異国感)。
収穫と蒸留──夜明けの花から“エクストラ”が生まれる
イランイランの花は夜明けから午前9時ごろまでに摘むのが定石。香りが最も強い時間帯だからです。

その後すぐに水蒸気蒸留にかけ、時間ごとの留出でエクストラ(Extra)/1st/2nd/3rd/コンプリートといったグレードに分かれます。

最初の1時間前後で得られるエクストラは最も華やかで、香水用途に特に重宝されます。フルコースで15時間ほど蒸留すると“トータル”な香りを持つコンプリートになります。
調香での役割と歴史

- “花束”をまとめる要:イランイランは多様なフローラルをつややかに束ね、アルデヒドの強さを“受け止めて”調和させる役割でも有名です。シャネル N°5 は、イランイランがあるからこそ高用量のアルデヒドを成立させられたという話が残っています。
- “貧者のジャスミン”から主役級へ:かつてはソープや整髪料でジャスミンの代替・補強として大量に使われ、「貧者のジャスミン」と呼ばれた時代も。現在は高品質品が高価で、現代の香水の約3割に登場するとされるほど重要な原料です。
イランイランを使ったおすすめの香水

| 香水名 | ブランド | 香り(方向性・主な印象) | イランイランの使われ方(役割) |
|---|---|---|---|
| N°5 | シャネル | アルデヒドがきらめくフローラル・ブーケ | フローラルの骨格に厚みを出し、強いアルデヒドを“受け止める”要として語られる。 |
| ジャドール | クリスチャン ディオール | “ソーラー”な白花ブーケ | 「ソーラーなイランイラン」を中心にジャスミン&ローズと調和させる中核。 |
| ソンジュ(Songes) | グタール | トロピカルな白花(フランジパニ/ティアレ)+バニラ | ハートでイランイランがとろみと官能を付与し、南国花束をまとめる。 |
| イランイラン ノシベ | ペリス モンテカルロ | トロピカル・フローラル/バニラの柔甘 | ハートでイランイランが主役。エクストラ品質の精油を際立たせる設計。 |
| イラン 49 | ル ラボ | シプレ・フローラル(ガーデニア×モス/ウッド) | クリーミーなイランイランを苔・ウッドで引き締める現代的シプレ。 |
| ソレイユ ブラン | トム フォード | ソーラー・フローラル・アンバー | カルダモンのスパイスと呼応し、イランイランが“日差し”のとろける質感を強調。 |
使われ方の例
- サンダルウッドと合わせると、ミルキーで官能的な芯が生まれやすい。
- バニラで甘さと光沢感を増幅。
- シトラスで重さを軽やかに補正。
文化の余談

インドネシアでは新婚初夜のベッドにイランイランの花をまく風習があると伝えられ、東南アジアでは古くから“恋の花”として親しまれてきました。ヴィクトリア時代のマカッサル油(整髪料)の材料でもあります。
まとめ

イランイランは、白花の濃厚さとトロピカルなクリーミーさ、そこに潜むスパイシーな陰影が重なった“太陽のフローラル”。花束をまとめる名脇役でありながら、香水によっては堂々たる主役にもなる――そんな懐の深さが、名香の中核に選ばれ続ける理由です。