シダーウッドってどんな香り?(おすすめの香水も)

シダーウッド(シダー)って聞いてどんな香りを思い浮かべますか?おそらく思い浮かべる香りは人によって違います。なぜならシダーは特定の木ではなく、針葉樹を中心とする広い範囲の樹木を指す言葉だからです。

分類学ではマツ科ヒマラヤスギ属だけがシダーだったのですが、ややこしいことにヒノキ科などにもシダーの名前が付けられています。

香水の世界でもシダーはそれらの針葉樹由来の精油の総称として使われるので Aさんはマツ科のシダーの香りの話をしているのに、Bさんはヒノキ科のシダーの香りの話をしていてすれ違うという状況になってしまいます。

なお、鉛筆箱のような香り=「鉛筆削り」感はシダーウッドの典型的イメージとして広く語られていますが、それは分類学的に真のシダー、マツ科ヒマラヤスギ属の香りではなく、ヒノキ科のシダーの香りです。
でも大丈夫。香料としてよく使われるのは原産地を併記される、ヴァージニアシダー、テキサスシダー、アトラスシダー(代わりにヒマラヤもたまに)の3種類(または4種類)なのでとりあえずこれだけ覚えておきましょう。
いずれも幹を切ったチップを主に水蒸気蒸留してベースノートで重宝される精油を得ます。
木材産業の副産物の蒸留が多いです。
種類別:香りのプロファイルと使われ方
1) ヴァージニア・シダー(Eastern Redcedar)

学名:Juniperus virginiana
香り:乾いた鉛筆芯、オイリーなウッディがすっきり甘乾きへドライダウン。整った“清潔な木肌”。
成分の骨格:α‑セドレン20–35%、β‑セドレン4–8%、ツヨプセン10–25%、セドロール16–25%など。香りのドライさ/清潔感はセドレン群、落ち着きと保留性はセドロールの寄与が大きいと考えられています。
使い所:ウッディ全般、フゼア/シプレの骨格づけ、フローラルの芯出し。整ったドライさで香りを引き締め、ややアンバー調の温かさも付与。大手原料メーカーのものは“鉛筆芯様のドライなウッディ+ほのかなアンバー”がよりクリーンに。
2) テキサス・シダー(Texas Cedarwood / Mountain Cedar)

学名:Juniperus ashei(= J. mexicana と表記されることも)
香り:乾いたウッディにスモーキー/タール/レザーの陰影。ときに“鉛筆木部”調が顔を出し、甘苦い燻香が残るのが個性。
背景:原料樹は米国中南部に広く分布するアッシュ・ジュニパー。
実務での使い所:レザー/タバコ調、シプレなどでスモーキーな陰影や重量感を付けたい時に。
3) アトラス・シダー(Atlas Cedarwood)

学名:Cedrus atlantica
香り:温かくクリーミーで、樹脂~レザーを帯びたアンバー調のウッディ。ヴァージニアより丸みがあり、持続力が高い。主要成分はヒマカレン類(α/β/γ)やアトラントン類。
実務での使い所:ウッディ/アンバー設計の基調材。丸みのある抱擁感で香りの芯を温めます。
注記:アトラススギはIUCN絶滅危惧種レッドリストで“Endangered(絶滅危惧)”。代替としてヒマラヤ・シダーや合成材の活用が推奨される文脈があります。
4) ヒマラヤ・シダー(Himalayan Cedarwood)
学名:Cedrus deodara
香り:アトラスに近いがややシャープで、清涼感のある樹脂様トップが立つという記述が一般的。成分面でもヒマカレン/アトラントン系が目立ち、Cupressaceae系(ヴァージニア/テキサス)と化学的に趣が異なります。
代表的な香気分子
- セドロール(Cedrol):低拡散・高保留のウッディ/セダー。香りを長持ちさせ、落ち着きを付与。
- α/β‑セドレン(Cedrene):ドライでスッとしたウッディ。ヴァージニアの“清潔な木肌”に寄与。
- ツヨプセン(Thujopsene):燻煙・タール・レザーを想起させる陰影。テキサス油のスモーキーさの鍵。
- ヒマカレン類/アトラントン類(Cedrus系):温かみ/樹脂質/レザー~アンバーの丸み。
合成の「シダー(セダー)様」ノート
天然のシダー精油に合成ウッディを重ねて、持続と拡散・質感を調整するのが定石です。
- Iso E Super:乾いたウッディでセダー様のヴェルベット質感。肌に“ふわっと纏う”テクスチャが長所。
- Cedramber(= Cedryl Methyl Ether):ドライなアンバーグリス調+濃いセダー様を付与。 (Perfume Society も、近年はシダー様の合成ノートが“深み”と“グラウンディング”を与える目的で広く使われると指摘)
使われ方
- 骨格づくり:シダーウッドはベースノートの柱。フゼア/シプレ/モダンウッディに不可欠。アトラスは丸みと持続、ヴァージニアはドライでクリーンな線を出すのに適します。
- 陰影づけ:テキサスでレザー/タバコのほの暗さを、ヴァージニアで清潔・鉛筆削りの明るさを。用途例として、テキサスはタバコ/レザー/シプレ系への適性が示されています。
実践ヒント

- クリーンで現代的なウッディに:ヴァージニア+少量の Iso E Super®。
- レザーやタバコの陰影がほしい:テキサスをごく少量で輪郭付け。
- 温かく官能的なウッディ基調:アトラスを主軸に、必要に応じ Cedramberで拡散性を補強。
嗅ぎ分けクイックガイド
タイプ | 嗅覚のキーワード | こんな時に |
---|---|---|
ヴァージニア (J. virginiana) | 乾いた鉛筆芯、清潔な木肌、軽い甘さ | フローラルを締める、フゼア/シプレの骨格に。 |
テキサス (J. ashei) | 乾いた木粉+スモーキー/タール/レザー | レザー/タバコ系や重心の陰影付けに。 |
アトラス (C. atlantica) | 温かくクリーミー、レザー~アンバー、持続 | ウッディ/アンバーを豊潤に、ベースの粘り出し。 |
ヒマラヤ (C. deodara) | アトラス似、ややシャープ | クリーミーさを保ちつつ輪郭を付けたい時に。 |
シダーを使ったおすすめの香水

シダーの種類 | おすすめ香水 | ブランド | 香りの特徴 |
---|---|---|---|
ヴァージニアシダー | スーパーシダー | BYREDO(バイレード) | 鉛筆削りを思わせるドライでクリーンなウッディ感 |
テキサスシダー | ハルマッタン | ElElla K(エラケー) | 乾いた木肌にレザーが重なるスモーキーで渋い印象 |
アトラスシダー | フェミニテデュボワ | SERGE LUTENS(セルジュ・ルタンス) | 木の女性性を打ち出した、シダー香水の金字塔 |
まとめ
- 共通の第一印象:乾いたウッディ、鉛筆削りを思わせる清潔感。ときに樹脂感やわずかな甘さ。
- 由来の違いで表情が変わる:
- ヴァージニア・シダー(Juniperus virginiana)=さらりと乾いた鉛筆芯的ウッディ。
- テキサス・シダー(Juniperus ashei/mexicana)=乾いたウッディにスモーキー/タールの陰影。
- アトラス・シダー(Cedrus atlantica)=温かくクリーミー、レザー~アンバーのコク。
- ヒマラヤ・シダー(Cedrus deodara)=アトラスに近いがややシャープ。 それぞれの詳細は下記。
- 香りの土台を作る“長持ち”素材:主にベースノートで、ブレンドの「芯」や「骨格」を与える。アトラス・シダー精油はロングラスティング。
- 主要な香気分子:ジュニパー系(ヴァージニア/テキサス)はセスキテルペン(α/β-セドレン、セドロール、ツヨプセン等)が主体。アトラス/ヒマラヤなど“真の杉(Cedrus)”はヒマカレン類やアトラントン類が特徴。