アルデヒドってどんな香り?

アルデヒドとは?
香料としてよく目にするアルデヒド。あなたはアルデヒドって石鹸ぽい香りの合成香料だとなんとなく思っているだけではないでしょうか?
実はアルデヒドってものすごいたくさんの種類があります。化学的には –CHO(アルデヒド基)ってやつをもつものの総称なので、作ろうと思えばいくらでも作れるからです。意外なところだとバニラの香りの主成分のバニリンもアルデヒドなんです。石鹸のイメージと違くないですか?
しかしながら、実際に香水の世界で使われるアルデヒドという言葉は、脂肪族アルデヒドという特定のカテゴリーだけを指します。

こんな感じでC(炭素:画像の黒い部分)がたくさんついているもの、C-8とかC-12って表現されます。

濃度が濃いと脂肪臭がするのとどこか金属っぽいにおいが刺さるのですが、希釈することで石鹸っぽくてキラッとするニオイにもなります。
いや、濃度が濃いと、本当に石鹸の匂いなんて感じる?というくらい不快な脂肪臭がします。
まずアルデヒドの“二つの意味”
- 化学の意味:–CHO(アルデヒド基)をもつ化合物の総称。バニリンやシトラール、シクラメンアルデヒドも含む。
- 香水の慣用:会話で「アルデヒド」と言えば多くの場合、C8〜C12の長鎖脂肪族アルデヒドのこと。トップを明るく(スパーク)、全体をクリーン/ソーピーに押し上げる役割の代名詞。
※以下で断りがない限り「アルデヒド」は脂肪族アルデヒド(C8〜C12)を指します。
どう香る?――炭素鎖と体感の相関

- C‑8 オクタナール:オレンジの皮のような明るさ
- C‑9 ノナナール:蝋のようななめらかさが清潔感
- C‑10 デカナール:甘みのあるオレンジピール
- C‑11 ウンデシリック:ワキシーなニュアンのローズ様
- C‑12 ローリック(ドデカナール):グリーン感のある清潔感
- C‑12 MNA(2‑メチルウンデカナール):典型的なアルデヒド香、アンバー香に変化

脂肪臭のベースの上にCの個数でそれぞれ個性があり、単独ではなく重ねて使われることが多いです。
アルデヒドの使われ方の例
- フローラルを“前に”:ローズ/ジャスミンに C‑10〜C‑12 をごく微量。トップが明るく、ブーケに“光”が差します。
- クリーン設計の柱:ムスクやミュゲ系(例:シクラメンアルデヒド)と重ねると洗い立てのリネン感が持続。
- 柑橘の格上げ:ベルガモット/オレンジに C‑8/C‑10 を添えると皮のビター感が出て、安っぽさが消えます。
- 角を丸める相性:メタリックが立ちすぎる時は、ヘディオン/イオノン/オレンジブロッサム/イランイランなどで柔らげるとスムーズ。
アルデヒドの歴史

- 1904年:脂肪族アルデヒドの人工的な製造方法が発見された(ベンゾイン縮合)。
- 1910年代:長鎖脂肪族アルデヒドの安定製造が進み、調香の選択肢が拡大。
- 1912年《ケルク・フルール発売》:フローラルに近代的な光沢を与える手法が注目される。
- 1921年《CHANEL No.5発売》:かつてない高用量でアルデヒドを押し出し、アルデヒディック=モダンで上質という図式を決定づける。
アルデヒドが使われたおすすめ香水

ブランド | 香水名 | 一言キャッチ(アルデヒドの印象) |
---|---|---|
シャネル | N°5(ナンバーファイブ) | アルデヒドの抽象感を世界に広めた金字塔 |
バイレード | ブランシュ | 冒頭からカチッと効いたアルデヒドで清潔な肌のイメージ |
メゾン フランシス クルジャン | 724(セブントゥエンティーフォー) | 都会的で洗練されたきらめき |
メゾン マルジェラ(REPLICA) | レイジー サンデー モーニング | アルデヒドが白いリネンの清潔感を押し上げる超人気香水 |
よくある誤解と注意
- 「石鹸=アルデヒド」ではない:石鹸は脂肪酸塩。アルデヒドは石鹸様の匂いを生みやすいだけ。
- アルデヒド C‑14(ピーチ)、C‑18(ココナツ)はラクトン:歴史的慣用名で、本当のアルデヒドではない。
まとめ
香水で「アルデヒド」と言えば、主に C8〜C12 の長鎖脂肪族アルデヒドを指し、微量でトップにきらめく立ち上がりとソーピーな清潔感、時にメタリックなエッジを与えてフローラルや柑橘を前に押し出します。香りは炭素鎖が伸びるほどシトラスの皮のはじけ感からリネン様のクリーンさへとシフトし、入れ過ぎると刺さりやすいので希釈して滴単位で調整されるのが基本です。
化学的にはバニリンやシクラメンアルデヒドもアルデヒドに含まれますが、香水の俗用ではそれらはバニラ系/ミュゲ系として別カテゴリーで語られる、という点だけ覚えておくと理解がスムーズです。