ライラックってどんな香り?

ライラック(Syringa vulgaris)は欧米の庭園を代表する春の花ですが、精油が商業ベースで採れません。ライラックは油分が少ないですし、その香りを構成するライラックアルデヒド類など主成分の熱・溶剤耐性が極端に低く、蒸留や溶剤抽出では香りが壊れるからです。アンフルラージュ法などでごく少量作ることは可能ですが、量産香水へは事実上供給できません。
そのため調香師は天然採油の代わりに分析で得たデータと合成香料を使い、複雑なアコードを再構築してきました。実際、抽出した精油よりも、合成香料のほうがはるかに自然の花の香りに近いとされています。
春に欧米の庭園を彩る代表的な花の1つ。日本でも札幌では市の花になっています。
ライラックの香り

ファセット | 具体的なニュアンス |
---|---|
フローラル‐パウダリー | なめらかで化粧品のような清潔感、淡いパステル感 |
ハニー & ジャスミン‑グリーン | 蜂蜜の甘さと若葉の青さが同居 |
ローズ/アーモンド | バラの花びら、ミルキーアーモンド |
シトラス‑フレッシュ | 立ち上がりにわずかなレモン、ベルガモット様のきらめき |
わずかなインドール | ジャスミン系に共通する“湿った木陰”のタッチ |
通常の蒸留や溶剤抽出では香りを損ねるため物理的採油はほぼ不可能。

ヘッドスペース採取で得た芳香成分を、下記分子を中心にブレンドして再現する手法が一般的です。
合成香料での再現技法

主要分子 | 香りへの寄与 |
---|---|
リラッカルデヒド A–D | きわめて低い嗅覚閾値で “典型的ライラック”を形成 |
リラッカアルコール | 甘さとフレッシュさのバランス |
リナロール/テルピネオール | 爽やかなフローラル・シトラス感 |
(E)-β‑オシメン、ベンジルメチルエーテル、インドール | グリーン/フルーティ、拡散性、わずかな動物的陰影 |
他の花との比較で捉えるライラック

比較対象 | 似ている点 | 異なる点 |
---|---|---|
スズラン | シャボンのような清潔感 | ライラックの方が蜂蜜・アーモンド調でやや甘い |
ミモザ | パウダリーで優しい | ミモザは黄粉感が強く、ライラックは緑~紫の湿度感 |
ジャスミン | インドールを共有 | ジャスミンの方が動物的で濃厚 |
特にスズラン(ミュゼ)は清潔感の部分でよく似ており、よく重ねられます。
ライラックのおすすめ香水

ブランド | 香水名 | ライラックの印象・香調 |
---|---|---|
キャロン | フルール ド ロカイユ | パウダリーなバイオレットにライラックが溶け合い、クラシック石けんを思わせる優雅さ |
ゲラン | イディール | すずらんとローズの華やかなブーケに、みずみずしいライラックが顔を出すロマンティックな香り |
フレデリック マル | アン パッサン | 雨上がりの春のそよ風にのって漂うナチュラルなライラック |
エアリン | ライラック パス | みずみずしいライラックにグリーンなガルバナムが重なり、清潔でフェミニン |
パルル モア ドゥ パルファム | トータリー ホワイト | 早朝の公園の生命力あるライラックをホワイトムスクが包み込む |
まとめ
ライラックの香りは、 パウダリーな花粉感と蜂蜜を帯びた甘さ を軸に、 若葉のグリーン、ローズやアーモンド、わずかなインドール が繊細に重なり合う多層構造です。
自然界からそのまま抽出できないため、調香師はリラッカルデヒド/リラッカアルコールを中心とする合成分子で“あの数日しか咲かない庭木”の情景を瓶の中に封じ込めています。春の訪れと郷愁を呼び起こす香りとして、クラシックにもモダンにも愛されつづけています。