トンカビーンズってどんな香り?

香水の世界で欠かせないベースノート「トンカビーンズ」は、 バニラに似た甘さとアーモンドのようなナッツ感、干し草やタバコのスモーキーさが重なり合う“温かく包み込む香り” で知られます。主成分クマリン(日本人にとっては桜餅香り)が醸し出すこの多層的な甘さは、19世紀に合成クマリンが誕生して以来フゼア系やグルマン系を中心に香水を一変させ、今日もオリエンタル・ウッディ・アンバー系など幅広い作品を支えています。
以下では、原料の正体/香りの特徴/歴史的役割/代表的な香水/安全性とどんなブレンドに使われるのかを解説します。
トンカビーンズとは
植物と産地
- 南米原産のマメ科の3、40メートルになる高木、クマル(ベネズエラでは「サラピア」と呼ばれる)の種子が原料 。
- 乾燥豆の表面に自然析出する白い結晶がクマリンで、甘い香りの源です。

抽出法と主成分
↓クマルの木に生っている果実。

↓果実の中にある硬い殻の中にトンカビーンズは入っている。

- 香料としては溶剤抽出で得るトンカビーンズ・アブソリュートが主流。自然に落下してきた果実を収穫→殻を破って種子を採集→乾燥→アルコールで膨潤→溶剤抽出という手順で採取されます。
- アブソリュート中のクマリン含有率は約75%程度と高く、わずかな量で強い芳香を放ちます。
- クマリンは欧米のメディアでは「トンカビーンズに高濃度で存在する芳香性天然物」と定義されることも多いほどです。
- 日本では「桜餅の香り(桜の葉を塩漬けして糖と分離した香り)」と説明するのがスムーズ。
トンカビーンズの香りのプロフィール
主要ニュアンス | 具体的な描写 |
---|---|
甘さ・バニラ様 | 「キャラメルやバニラを思わせる滑らかな甘さ」 |
ナッツ・アーモンド | 「ピスタチオやアーモンドのようなロースト感」 |
干し草・ハーバル | 「刈り立ての牧草のような甘苦さ」 |
タバコ・バルサム | 「柔らかなタバコとバルサミックなコク」 |
ポイント
- 少量ならグリーンで乾いた “干し草” が前に出て、量を増やすとバニラ/キャラメル感が強まります。
- 甘さの立体感を作るため、しばしばバニラ、カカオ、シダー、レザーなどと重ねられます。
- クマリンは桜葉を塩漬けすると生成し、桜餅の“ふわりと甘い葉香”と同一分子です。
- 日本人にとっては「桜餅+きな粉+焦がし砂糖」を重ねたような多層的な甘さで、わずか0.2 %でも香り全体に“湯気立つ和菓子”の奥行きを付与します。
合成クマリンの歴史と香水史へのインパクト

- 1868年にウィリアム・パーキンが世界初の合成クマリンを製造し、1882年に発売されたウビガンのフゼア ロワイヤル(フジェール ロワイヤル)で実用化。これがフゼア調(ラベンダー+オークモス+クマリン)の祖となり近代調香の幕開けを告げました。
- “自然の甘さ”を安全に再現できたことで、20世紀初頭のオリエンタル香水から1990 年代以降のグルマン旋風まで、温かい甘味の核として不可欠な存在に・・・。
- 現代でも天然のトンカビーンズと共に利用されています。
↓フゼア ロワイヤル

現代の代表的フレグランス
香水 (年) | トンカの役割 |
---|---|
トム フォード – タバコバニラ (2007) | 甘いタバコとバニラを橋渡しするスパイシーなコク |
メゾン マルジェラ – バイ ザ ファイヤープレイス(2015) | 燃えさしの木とマシュマロの煙を甘く包む |
キャロライナヘレナ – グッド ガール (2016) | ホワイトフローラルにクリーミーな温もりを添える |
ゲラン – トンカ サラピア エクストレ 75 (2023) | トンカが主役 |
ディプティック – オルフェオン (2021) | シダー・ジュニパーに艶を与えるパウダリー甘味 |
安全性と規制
- クマリンは欧州化粧品規則(EU 1223/2009)で表示義務のある26アレルゲンの一つ。IFRA第50 改訂ではリンスオフ製品で0.1%など厳格な上限が示されています。
- ただし外用での毒性は極めて低く、「経皮使用に関し人体リスクの報告はない」との見解もあります。
- 食べ過ぎは毒になるが、桜餅の葉っぱ程度なら問題ないとされます。
ブレンドのヒント
- オリエンタル系: パチョリ/シダー/ミルラなどの香りを高める。
- グルマン系: バニラ/カカオ/サンダルウッドと合わせるとデザートのような温もり。
- ウッディ系: シダーやガイアックウッドに 0.5 %程度加えると柔らかい甘煙感を付与。
- シトラス・ラベンダー: フゼアの再解釈としてトップを爽やかに、ドライダウンで温かさを演出。
- レザー・タバコ: スパイスを介してブレンディングするとビターで大人びたニュアンス。
まとめ
- 香りのコア: クマリン主体の“バニラ+干し草+アーモンド”という三位一体。日本人なら桜餅の葉。
- 歴史的意義: 合成クマリンの登場で近代調香が加速、現在も甘さの礎。
- 現代的価値: グルマンからクリーンウッディまで万能な“温もり増幅器”。
- 使用時の注意: IFRA規制値を守りつつ、量を調整して香りの立体感を操る。
トンカビーンズは、適量で香りに“湯気立つ和菓子”のような幸福感をもたらす素材。奥行きのある甘さを試したいときにトンカビーンズを探してみてください。
→解説動画